風力タービン診断|構造・機構の理解とESAの特長
風力タービンを正しく診断するには、構造と機構を理解し、低周波域から高周波域までの現象を設備の動きと結び付けて解析する必要があります。これは振動解析や電気信号解析(ESA)など、診断手法に共通する基本です。本稿では、この考え方と、ESAの測定上の特長を整理します。

構造と機構から、周波数の意味を考える
風力タービンは、変圧器や制御装置、発電機の回転子回路・固定子、ギアボックス、主軸受、可変ピッチブレードを保持するハブなどから成る複雑なシステムです。増速機を備える機種では、遊星歯車機構を含む2〜3段のギアボックスや、1個または2個の主軸受などが用いられます。具体的な構成は機種によって異なります。
主軸やブレードの回転に伴うゆっくりした変動から、歯車のかみ合いや発電機に関係する成分まで、着目すべき周波数はさまざまです。
計算例:ブレード側ローターが19 rpmの場合
3枚翼の風車を例にすると、回転次数に対応する基準周波数は次のようになります。
| 成分 | 計算 | 周波数 |
|---|---|---|
| 回転周波数(1P) | 19 ÷ 60 | 約0.317 Hz |
| 回転の2次成分(2P) | 2 × 19 ÷ 60 | 約0.633 Hz |
| ブレード通過周波数(3P) | 3 × 19 ÷ 60 | 0.950 Hz |
表は機械的な回転次数に対応する周波数を示しています。ESAで電流・電圧スペクトルを解析する場合は、これらの変動が電源周波数の周囲の側帯波(中心となる周波数の両側に現れる成分)などとして現れる場合があります。
数値は、記載した条件に基づく計算例です。各成分の存在だけでブレードの異常を示すものではありません。

ESAの特長:1箇所の測定から動力伝達系を広く評価する
風車の振動解析では、一般に主軸受・ギアボックス・発電機などの複数の測定箇所にセンサーを設置し、各部の振動を捉えます。
ESA(Electrical Signature Analysis:電気信号解析)の特長は、適切な信号を取得できる制御盤などの1箇所から電流・電圧を測定し、発電機自体に加え、ブレード・主軸・ギアボックスを含む動力伝達系の状態を広く評価できる点にあります。各部の状態変化に伴うトルク変動などが、電気信号にも反映されるためです。
現象を見分けるための測定条件を整える
異なる現象に由来する成分が近接すると、異常の発生箇所や原因を取り違えるおそれがあります。そのため、測定器の解析周波数の上限(FMAX)やFFT点数だけで判断せず、対象に必要な解析帯域と周波数分解能が実際に得られているかを確認します。
実データの収録時間、窓関数、ノイズ、回転速度の変動も、成分の見分けやすさに影響します。測定条件は、捉えたい現象に合わせて設定する必要があります。
さらに、測定位置や電力変換器の構成によって、取得できる情報は異なります。設備構造と実測した回転速度・電源周波数を照合し、評価できる範囲を見極めます。
運転変動と異常兆候を切り分ける
風況や制御による速度・負荷の変化は、スペクトルの形にも影響します。そこで、スペクトルを時間順に重ねるウォーターフォール表示を用い、成分の移動や繰り返しの現れ方を確認します。
当社は、これらの特徴を風況やSCADAの運転データと照合し、ブレードから発電機に至る動力伝達系の健全性を評価します。必要に応じて振動解析や点検結果も組み合わせ、追加点検や保全対応の判断につなげます。
実際の設備への適用条件や診断の進め方は、風力発電設備の診断・状態監視でご案内しています。原理についてはコア技術の風力発電への適用をご覧ください。診断・解析のご相談も受け付けています。
参考文献
Howard W. Penrose, Practical Electrical and Current Signature Analysis of Electrical Machinery and Systems.

