モーターがセンサーになる——電気信号解析技術の原理 | TRIPOD

モーターのエアギャップが高感度センサーとして機能する原理と、振幅変調・FFT解析による異常検出の仕組みを解説します。インタラクティブなシミュレータで実際に体験できます。

モーターの内部構造——エアギャップとは何か

モーターは、固定子(ステーター)と回転子(ローター)という二つの主要部品で構成されています。固定子は静止した外側の部品、回転子はその内側で回転する部品です。この二つの間には「エアギャップ」と呼ばれる物理的な隙間が存在します。

エアギャップは、電気エネルギーを回転のエネルギーへ変換する領域です。3相交流で生じる回転磁場が、固定子と回転子の間に電磁力を生みます。負荷側の変動が回転子や電磁トルクに伝わると、その特徴が電気信号に現れる場合があります。

回転磁場が機械の状態を映し出す

モーターはポンプ・ファン・圧縮機・ギアボックスといった負荷設備と機械的に接続されています。これらの設備で異常が発生すると、その影響はモーターの回転軸を通じてエアギャップの磁場に伝わります。

たとえば、軸受に損傷が生じると、損傷した部位が回転のたびに衝撃を発生させます。歯車に欠けが生じると、噛み合いのたびに固有の振動が生まれます。これらの機械的変化が軸を介して電動機に伝わり、磁束や電磁トルクに影響すると、その特徴が電流・電圧に現れる場合があります。観測しやすさは、機械結合、負荷、速度、駆動制御、測定帯域とノイズに左右されます。このように、モーターを介して電気信号に反映された負荷側の状態変化も、診断の手がかりとして評価できます。

電流・電圧信号への変換——振幅変調の仕組み

電磁作用や負荷の変動は電流などの信号に現れる場合があります。ここでは、その一つの表現である「振幅変調(AM)」を学習用の単純モデルとして扱います。

3相交流電源の周波数(通常50Hzまたは60Hz)は、電気信号の「搬送周波数」として機能します。機械系統の異常によって生じる固有の振動周波数(特徴周波数)は、この搬送周波数に重畳され、電流・電圧の振幅を微細に変化させます。ただし、実機には別の変調や制御由来の成分もあり、周波数だけで故障を確定することはできません。

制御盤に適切な測定点があれば、機械本体に触れることなく、運転中に電流・電圧を取得できます。得られた信号を設備の構造や運転条件と照合し、信号に現れている特徴を評価します。

周波数解析(FFT)による異常の特定

取得した電流・電圧信号には、搬送周波数を中心に複数の特徴周波数成分が重畳されています。この複合した信号から各成分を分離・定量化するために用いるのが「周波数解析(FFT解析)」です。

FFT解析は、時間軸の信号を周波数軸のスペクトルに変換します。ピークの位置と大きさは、異常に関連する候補を検討する手がかりです。運転条件、機器構造、他の成分との重なりを確認し、必要な追加計測と照合して評価します。軸受や歯車などでは、形状と回転速度から計算した特徴周波数を、注目する成分の候補として用います。偏心、アライメント不良、巻線の異常なども、周波数成分の組み合わせや運転条件と照合して評価します。周波数だけで異常部位が一意に定まるわけではありません。

なお、FFT解析は振動解析・音響解析・電気信号解析のすべてで共通して使われている技術です。共通するのは周波数解析の手法です。信号の発生・伝達・変調の仕組みは異なるため、それぞれの特徴を踏まえて解釈し、複数手法を組み合わせて評価します。

以下のシミュレータでは、振幅変調(AM)の学習用モデルで、特徴周波数と側帯波の関係を確認できます。表示は模擬データであり、実設備の診断結果や故障の判定基準ではありません。スライダーを操作して回転数・ベアリング形状・異常強度を変化させると、時間波形とスペクトルがリアルタイムで更新されます。

TRIPOD Corporation — ESA / MCSA
モーター電流徴候解析(MCSA)シミュレータ
振幅変調モデル(AMモデル)・理論ベアリング特徴周波数
運転条件
回転数 1480 rpm
電源周波数 50 Hz
ベアリング形状
転動体数 (nb) 8
転動体径 bd [mm] 8
ピッチ径 pd [mm] 40
接触角 φ [°] 0°
変調深度(異常強度)
外輪傷 (BPFO) 0.050
内輪傷 (BPFI) 0.030
偏心 (ecc) 0.040
ノイズ 0.010
表示フィルタ
異常モード
表示上限周波数 300 Hz
理論特徴周波数(計算値)
fr(回転)
— Hz
BPFO(外輪)
— Hz
BPFI(内輪)
— Hz
BSF(転動体)
— Hz
FTF(保持器)
— Hz
偏心SB(上)
— Hz
このAMモデルでは f₀ ± BPFO、f₀ ± BPFI、f₀ ± fr に成分が生じます。片側スペクトルでは差周波数を絶対値で表示します。これはサンプリングによるエイリアシングとは異なります。
時間波形(先頭 50 ms)
電流スペクトル(MCSA) — dBc スケール(f₀ = 0 dB 基準)
f₀(基本波): 50.00 Hz
変調周波数 BPFO(外輪): — Hz
変調周波数 BPFI(内輪): — Hz
変調周波数 fr(偏心SB): — Hz
物理モデル: i(t) = [1 + Σ mᵢ·cos(2π·f_fault_i·t)] · cos(2π·f₀·t) + noise
加算型ではなく振幅変調(AM)モデル。スペクトル上の異常成分は f₀ の両側にサイドバンドとして出現。
ベアリング特徴周波数:BPFO = (nb/2)·fr·(1 − (bd/pd)·cosφ)、BPFI = (nb/2)·fr·(1 + (bd/pd)·cosφ)

診断の両輪——計測品質と診断知識

電気信号解析技術を正確に実践するためには、二つの条件が同時に必要です。

一つ目は、診断に必要な品質で信号を測定することです。微小な特徴成分を捉えるために、測定帯域、分解能、ダイナミックレンジ、データ長を確保します。計測器は、これらの条件に加え、同期測定や入力方式も確認して選定します。

二つ目は診断知識です。高精度なスペクトルが得られたとしても、各ピークが何を意味するかを解釈できなければ正確な診断はできません。特徴周波数の理論式、負荷条件・機種特性による補正、異常の進行度判定——これらの知識が診断結果の精度を決定します。

計測品質と診断知識、この両輪が揃って初めて電気信号解析技術は診断ツールとして機能します。実際の適用設備と保全への活用は、ESAの適用範囲と診断価値で紹介しています。

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関連情報・ご相談

電流・電圧の変化を実機で評価する際は、取得可能な信号と運転条件に合う機器・解析方法を選びます。