電気信号解析技術(ESA)の適用実績 | TRIPOD

本稿では、電気信号解析技術(ESA)による国内の診断実績を、業種、対象機器、検出した異常に分けて紹介します。顧客や設備に関する情報の保護に配慮し、個別事例の詳細は記載していません。

1. 電気信号解析技術(ESA)とは

電気信号解析技術(ESA)は、電動機や発電機の電流・電圧を電源盤で計測し、機器の状態を読み解く診断技術です。測定条件と安全手順が整えば、機器の運転中に計測でき、回転体へのセンサー取付けも不要です。

電流・電圧には、負荷の変動、回転子や巻線の異常、電源側の状態が反映されます。ESAでは、これらの特徴を照合し、一つの電気計測から複数の診断情報を得ます。

2. 適用実績の概要

国内実績の広がり

これまでに当社は、延べ30台規模のESA診断を国内で実施してきました。対象とした業種は、石油精製・石油化学・ごみ焼却・金属精錬・下水処理、そして風力発電と多岐にわたります。機器の種類も十数種類に及びます。

設備容量は、1kW未満の小型機から約2MWの大型機まで幅広く対応しています。また、駆動方式もインバーター駆動・商用電源直入れ・誘導発電機・同期発電機と多様です。なかでも風力発電向けの発電機が最も多く、実績の半数近くを占めています。

直流電動機への対応

さらに、サイリスタ(SCR)による位相制御を用いた直流電動機への適用実績もあります。直流機は交流機とは異なる固有の構成要素を持ちます。具体的には、整流子・ブラシ・電機子といった部位に加え、制御部品の状態も診断対象となります。電気的な制御異常と機械的な劣化が複合して現れるケースにも、ESAは有効に機能します。

海外実績と今後の展望

一方、当社が技術パートナーとして連携するメーカーは、ESA診断を世界規模で展開しています。海外の適用台数は公表していませんが、発電所、産業プラント、風力発電など、多様な分野で長年の診断実績があります。

国内でも、当社はパートナー企業と連携し、対象設備と用途に応じた診断を通じて実績を積み重ねています。

3. ESAが捉える事象の幅

三つの領域

ESAが捉える事象は、ひとつの種類にとどまりません。回転機械では、検出し得る事象を大きく三つに整理できます。すなわち、流体・環境に起因する物理的事象、軸受や歯車などの機械的事象、そして回転子や巻線などの電気的事象です。

下図は、ESAが一般的に検出し得る事象を、三つの観点から整理したものです。これらは代表的な例であり、検出対象を網羅するものではありません。実際の診断では、機器ごとに事象を絞り込みます。

① 物理的事象

流体・環境に起因

流体振動(脈動・乱流など) キャビテーション
② 機械的事象

回転・伝達系の機械的な異常

羽根・インペラの破損/摩耗 軸受の損傷 歯車・増速機の異常(摩耗・欠損) ローターのアンバランス ミスアライメント ベルトの異常(張り・滑り)
③ 電気的事象

回転子・固定子・電源側・制御系の異常

交流機の例(機器形式により異なる)

回転子バーの破損(かご形誘導機など) 回転子の偏心(静的・動的) 固定子巻線異常の兆候(ターン間短絡など) 電源品質の問題(電圧不平衡・高調波など)

直流機固有

整流子・ブラシの異常 電機子巻線の異常 ゲート信号基板(点弧制御)の異常 コンパレータ回路の劣化 SCR(サイリスタ)の異常

図:ESAが捉える事象の分類。ひとつの電気計測から、物理・機械・電気の三領域にわたる事象をとらえ得る。

電気的事象への独自の強み

とりわけ、回転子バーの破損や電気信号に現れる巻線異常の兆候は、振動診断だけでは捉えにくい領域です。絶縁の状態を確定する場合は、絶縁抵抗や部分放電など、対象設備に適した専用試験も検討します。これに対し、ESAは電流・電圧を直接観測するため、内部の電気的異常に強みを持ちます。当社の実績でも、軸受・歯車・羽根・偏心・回転子バー破損など、複数のカテゴリにまたがる事象を検出してきました。さらに、直流電動機においては、制御系の異常と機械的劣化が複合する事象を読み解いた事例もあります。

ESAと振動診断の使い分け

なお、ESAは電流だけでなく電圧も観測します。そのため、電圧の不平衡や高調波といった電源品質の問題も評価できます。一方、筐体や基礎の構造共振は、振動診断が得意とする領域です。ESAは、それが負荷変動として電流に現れる場合にのみ捉えます。両者の役割は異なります。適切に使い分けることが重要です。

4. 適用対象の広さ

診断の対象は、ポンプ・送風機・圧縮機・撹拌機・真空ポンプ・遠心分離機・発電機など、多様な回転機械に及びます。

とりわけ有効なのは、振動センサーの設置が難しい設備です。例えば、インバーター駆動機や水中ポンプが挙げられます。電源盤側に安全にアクセスできる場合、設備本体に近づきにくい環境でも運転中の状態を把握できます。防爆エリアや高温・高湿環境への適用可否は、計測場所・使用機器・現場の安全要件を確認して判断します。

5. 風力発電への適用

当社が最も注力するのは、風力発電設備への適用です。誘導発電機・同期発電機のいずれにも対応しています。これまでに、乱流によるブレードの空力的不均衡・主軸受の異常・増速機(歯車・軸受)の異常・発電機軸受の異常などを検出してきました。

風力発電機は塔上の限られた空間に設置されています。そのため、点検のたびに停止やアクセスのコストがかかります。地上の電源側から状態を把握できるESAは、こうした制約に適した診断手段です。

6. まとめ ── 物理に基づく客観診断

ESAは、異常を「探し出す」だけの技術ではありません。実績のなかには、診断の結果「健全」と判定した事例も含まれます。今回の測定条件と評価対象の範囲で異常兆候を認めなかった、という結果も保全判断に活用します。すべての故障の不存在や、将来の故障防止を保証するものではありません。状態を物理的な根拠に基づいて客観的に評価する。そして、必要なときに必要な手当てを促す。それが、当社が大切にする診断の姿勢です。

多様な業種・機器にわたる実績は、その一つひとつの積み重ねの記録でもあります。

関連情報・ご相談

対象設備への適用は、機器の形式、運転条件、確認したい症状を伺って検討します。

*掲載した内容はすべて匿名化しており、顧客名や設備の特定につながる情報は記載していません。