「ESAはよく分からない」という声の背景
電気信号解析技術(ESA)を紹介すると、「ピンとこない」という反応を受けることがあります。この反応には理由があります。
機械系エンジニアの視点では、ESAは「電流・電圧を計測する電気の技術」に見えます。一方、電気系エンジニアの視点では、「軸受や歯車の異常を診断する機械の技術」に映ります。どちらの専門領域からも「自分には関係ない」と判断されがちです。
しかしこの印象は、ESAの本質を正確に反映していません。ESAは電気と機械のどちらか一方の技術ではなく、両方を同時に扱う技術として設計されています。
「聞いたことがない技術は日本で通用しない」——そのような反応を受けることがあります。しかしこの判断には注意が必要です。
ESAの起点は1980年代にさかのぼります。米国オークリッジ国立研究所における原子力発電所向けバルブ診断研究がその出発点です。その後Framatome社によって産業用診断プラットフォームとして発展しました。2000年代にはMotorDoc社により、風力タービンへの応用も確立されました。
現在は世界各国の発電プラント・産業設備で実績を持つ技術です。日本国内での認知度が限られているのは、高度に専門化された領域で運用されてきた経緯があるためです。認知度の低さは技術の信頼性や実績とは別の問題です。
振動診断との共通基盤
振動診断の経験は、ESAを学ぶ際にも役立ちます。両者は、周波数成分を設備の構造や異常の発生機構と照合するという、共通の考え方に基づいているためです。
振動診断では、振動波形をFFT解析で周波数領域に変換します。そして特徴周波数成分の出現・成長を異常の指標として用います。ESAでも同じ手順を踏みます。電流・電圧波形をFFT解析で周波数領域に変換し、特徴周波数成分を評価します。
軸受の損傷周波数(BPFO・BPFI・BSF)・歯車の噛み合い周波数・回転周波数といった特徴周波数の理論式は、両者で共通です。振動診断で培った周波数解析の知識は、ESAを理解する基礎になります。ただし、電気信号への伝達や変調によって観測される成分が異なるため、信号ごとの解釈を学ぶ必要があります。
振動診断では見えないものがESAで見える
実際にESAを使ってみると、今まで振動信号からは見えていなかった情報が、同じ診断フレームの延長線上で見えるようになります。
信号の種類によって反映される情報が異なります。振動信号は機械的な構造振動を反映します。一方、電気信号はモーターのエアギャップを介して、電気系統と機械系統の両方の状態変化を反映します。回転子バー破損・固定子巻線劣化・インバーター駆動に伴う電源波形のひずみといった電気的異常は、振動信号には現れにくいものの、電気信号に特徴が現れる場合があります。検出可否と解釈は、設備構成と運転条件を確認して判断します。
電圧信号には電源品質やインバータなど供給側の特徴が、電流信号には機械系統を含む負荷側の特徴が現れます。ESAでは両信号と運転条件を照合し、供給側と負荷側の影響を検討します。
電気と機械を横断的に評価するESA
設備診断の現場では、電気系統と機械系統の評価が専門領域ごとに分業されている場合があります。それぞれの専門性を活かす上で合理的な体制です。
しかし実際の設備異常は、電気と機械が密接に関連して発生します。インバーターのコモンモード電圧と、接地・配線・寄生容量などが関与し、軸電圧や軸受電流によって電食が生じるケースや、機械的なアンバランスが電流変調として現れるケースがその例です。
ESAでは、取得した電流・電圧と運転条件を照合し、電源・駆動制御と負荷側の双方に関わる特徴を評価します。一つの測定から複数の観点で検討できることが利点です。対象設備と確認したい故障モードに応じて、振動解析や他の計測結果も組み合わせます。
電流高調波の観測だけで、軸受電流や電食の発生を確定することはできません。疑いがある場合は、設置条件の確認、軸電圧・軸受電流の適切な測定、軸受の点検などを組み合わせます。
ESAを使いこなすために必要な知識
ESAでも、FFT解析の読み方、特徴周波数の理論、故障モードと周波数成分の対応関係を使います。振動診断で培ったこれらの知識を土台に、電気信号の特性を学ぶことで、解析結果を理解しやすくなります。
加えて、三相交流回路の基礎・電源品質の概念・インバータ制御の基本を理解することで、ESAの診断範囲を電気系統にまで広げることができます。機械系エンジニアが電気の知識を加え、電気系エンジニアが機械振動の知識を加えることで、ESAは最も有効に機能します。
ESAは特定の専門領域に閉じた技術ではありません。電気と機械の両方を視野に入れた診断を行いたいエンジニアに向けて設計された技術です。
関連情報・ご相談
振動解析の知識を生かしながらESAの測定・解析を学びたい方や、複数の診断結果を照合したい方を支援します。


